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アジア大会サッカー日本vs北朝鮮、何が起きた?猛抗議と挨拶拒否、2023年杭州からの「因縁」を時系列で整理


愛知・名古屋アジア大会のサッカー男子準々決勝で、U-21日本代表が北朝鮮に1-0で勝ちました。試合では、決勝点をめぐる北朝鮮の猛抗議や、試合後に挨拶の列に加わらなかったことが大きな話題になりました。「何があったの?」「なぜ日朝戦はいつも荒れるの?」と気になった方も多いのではないでしょうか。

この記事では、日刊スポーツ、ゲキサカ、サッカーダイジェストなどの報道をもとに、試合で起きたことと、過去の日朝戦の経緯をまとめます。

要点

  • 準々決勝で日本が北朝鮮に1-0で勝利。決勝点のあと、北朝鮮の選手が主審に詰め寄り、試合が約2分間止まった。
  • 試合後、北朝鮮の選手は整列と挨拶に加わらなかった。北朝鮮の監督は会見で「審判に問題があった」と話した。
  • 日朝戦は、2023年杭州大会の準々決勝や、2025年のU-17ワールドカップでも騒動があり、「因縁の対決」と呼ばれている。

日本1-0北朝鮮、アジア大会準々決勝で何が起きた?

試合結果と決勝点(39分、ンワディケのゴール)

試合は9月26日の夜、雨が降るなか愛知県の豊田スタジアムで行われました。大岩剛監督が率いるU-21日本代表は、23歳以下の選手にオーバーエイジ(年齢制限を超える選手)を加えたU-23北朝鮮代表と対戦しました。立ち上がりは北朝鮮が激しいプレスをかけ、日本はなかなか思うようにボールを運べない展開が続きました。

試合が動いたのは前半39分です。DF佐藤海宏選手(アルビレックス新潟)が自陣から蹴ったロングボールが相手ゴール前に落ち、北朝鮮のDFキム・ユソン選手が処理しようとしたところに、FWンワディケ・ウチェ・ブライアン世雄選手(オールボー/デンマーク)が後ろから詰めました。競り合いでボールを奪ったンワディケ選手は、GKとの1対1を右足で決めて先制しました。この試合が今大会初先発だったンワディケ選手は、試合直後のフラッシュインタビューで「けっこう厳しい戦いが続いた中で、相手の背後に落ちるボールを狙うのは自分の得意なプレーなので」と話しています(RONSPOによる)。ンワディケ選手のプロフィールは「決勝ゴールのンワディケって誰? 読み方・年齢・経歴と、191cmのFWがデンマーク移籍から大岩ジャパンで初先発弾を決めるまで」で紹介しています。

このゴールが決勝点となり、日本は1-0で勝ちました。日本は3大会連続のベスト4進出で(日刊スポーツ、スポニチアネックス)、9月30日に大阪・長居でウズベキスタンとの準決勝に臨みます。準決勝の日程や放送予定は「アジア大会サッカー男子、準決勝はいつ? 日本vsウズベキスタンは9月30日・長居|決勝までの日程と、U-21で挑む大岩ジャパンの勝ち上がり」でまとめています。

シュート数は北朝鮮18本、日本10本。それでも日本が勝った理由(枠内シュートは北朝鮮3本、日本4本/GK荒木琉偉のセーブ)

数字だけを見ると、試合は北朝鮮が押し気味でした。RONSPOが紹介した韓国メディア『NEWSIS』の集計によると、シュート数は北朝鮮18本、日本10本です。しかし、ゴールの枠内に飛んだシュートは北朝鮮が3本、日本が4本で、日本のほうが多くなっています。韓国紙『スポーツ朝鮮』も「北朝鮮の問題は決定力だった」と伝えています。

日本の勝利を支えたもう1人の立役者が、GK荒木琉偉選手(ガンバ大阪)です。サッカーダイジェストによると、荒木選手は前半36分に北朝鮮のチェ・グク選手の強烈なシュートを止め、試合終盤にも同じチェ・グク選手の決定機をファインセーブで防ぎました。日刊スポーツによると、18歳の荒木選手は好セーブを連発し、日本は今大会4試合連続の無失点となりました。北朝鮮の強い圧力にさらされながらも、最後の場面で失点しなかったことが勝敗を分けました。

決勝点のあとに試合が止まった「約2分間」

北朝鮮が「押した」と抗議した場面の中身

北朝鮮側が問題にしたのは、ンワディケ選手がキム・ユソン選手と競り合った場面です。北朝鮮は、ンワディケ選手がキム・ユソン選手の背中を押すファウルをしたと主張し、ゴールが決まった直後から複数の選手がシリアのハンナ・ハットタブ主審に詰め寄りました(日刊スポーツ)。スポーツ朝鮮は「競り合いの際に相手選手を押したような動きがあった」と伝えつつ、判定は変わらなかったと報じています。

一方、ゲキサカは、ンワディケ選手が「海宏のクリアが絶対に裏を越えてくるなというのは予測が早めにできた」と振り返ったことを伝え、「ファウルにならないように」したンワディケ選手の駆け引き勝ちのゴールだったとしています。競り合いでの体の接触がファウルになるかどうかは、最終的に主審が判断します。この試合では主審がファウルを取らず、日本のゴールが認められました。なお、キム・ユソン選手は、2023年の杭州大会の準々決勝でも日本と対戦した選手です。

選手がベンチ前に集まり、VARを求めるジェスチャーをした

抗議はすぐには収まりませんでした。スポーツ朝鮮によると、日本の選手たちがゴールを喜び、試合再開の準備を始めたころ、北朝鮮の選手たちはそろってベンチ前のピッチに引き揚げました。とくに激しく抗議していたのはGKのカン・チュヒョク選手で、ベンチではリ・グァンチョン監督も審判団に向かって声を上げていたと伝えられています。

選手の中には、両手でテレビ画面の形(長方形)を描き、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で映像を確認するよう求める選手もいました。しかし、今大会の男子サッカーでVARが導入されるのは準決勝からで、準々決勝では使われていません。そのため、映像で確認されることはなく、主審の判定がそのまま最終的な判定となりました。あのゴールがルール上ファウルに当たるのか、VARがなぜ準決勝からなのかは「アジア大会サッカーでVARが準々決勝になかったのはなぜ?|日本の決勝点はファウルだったのか、ルールで解説」で解説しています。

試合が止まった時間は、報道によって「約2分」と「3分近く」に分かれている

この抗議で、試合はしばらく止まりました。止まっていた時間は、報道によって違います。

  • 約2分:RONSPO、スポーツ朝鮮(RONSPOによる紹介)
  • 約3分:日刊スポーツ(その間に北朝鮮の選手はベンチ前に戻って給水したと報道)
  • 3分近く:CoCoKARAnext(韓国メディア『News1』の報道を紹介)

どこからどこまでを「中断」と数えるかで、時間は変わります。はっきりしているのは、ゴールのあと北朝鮮の選手がすぐには再開の位置に戻らず、数分にわたって試合が止まったことです。最終的に選手たちはピッチに戻り、試合は再開されました。

後半もPKとハンドを主張し、警告は3枚

後半42分、GK荒木琉偉のセーブ直後の抗議

北朝鮮は後半に入っても判定への不満を示しました。フットボールチャンネルによると、後半には日本のペナルティーエリア内でPKを求める場面があり、終盤にはハンドを主張して選手たちが再び主審に抗議しています。RONSPOによると、北朝鮮は先制されたあとの後半だけで3枚のイエローカードを受けました。

そのうち2枚は、後半42分に荒木選手が決定的なシュートを止めた直後のものです。北朝鮮の選手たちは日本の選手にハンドがあったとして、再びハットタブ主審を取り囲むように抗議し、警告を受けました。この荒木選手のセーブの時間は、サッカーダイジェストでは88分と書かれており、報道によって1分ほどずれています。判定は変わらず、北朝鮮は最後まで同点に追いつけませんでした。

試合後、整列と挨拶に加わらなかった

主将のGKカン・チュヒョクが仲間をスタンド方向へ促した

試合終了の笛が鳴ると、ふつうは両チームの選手と審判団が一列に並んで挨拶し、握手を交わします。しかし、この試合では北朝鮮の選手たちがこの整列と挨拶に加わりませんでした。RONSPOによると、オーバーエイジ枠で招集されたGKカン・チュヒョク選手(チームの主将。報道によっては「カン・ジュヒョク」と表記)が、早くピッチから去るよう身振りで仲間に促し、選手たちはゴール裏の北朝鮮サポーターの前へ向かいました。日刊スポーツによると、通常は両チームがセンターサークル付近に一列に並んで握手を交わしますが、この日はGKが並ばずに下がるよう指示し、選手たちは日本の選手とあいさつすることなく引き揚げました。

一方で、監督同士は握手をしています。デイリースポーツは「両監督は握手」と伝え、日刊スポーツも北朝鮮のリ・グァンチョン監督が笑顔で大岩監督と握手し、健闘をたたえ合ったと報じています。リ監督は現役時代にセンターバックとして2010年のW杯南アフリカ大会にも出場した人物です(日刊スポーツ)。選手たちは挨拶を拒否した一方で、監督同士は握手を交わすという、対照的な光景になりました。

挨拶の拒否は、ルール違反になるのか

試合後の整列や握手は、サッカーで広く行われている慣習です。しかし、試合のルールを定めた国際サッカー評議会(IFAB)の「サッカー競技規則」には、試合後に整列や握手をしなければならないという決まりはありません。そのため、挨拶をしなかったことが、それだけで競技規則上の反則になるわけではありません。

一方、大会や大陸の連盟には、フェアプレーや選手の振る舞いについての規律規程があります。アジア大会はアジア・オリンピック評議会(OCA)が主催し、サッカー競技はアジアサッカー連盟(AFC)が関わって運営されます。試合中の抗議や試合後の振る舞いが規律規程上の問題として扱われるかどうかは、大会の規律委員会などが判断することになります。

北朝鮮のリ・グァンチョン監督の会見コメント

審判への批判(訳の違いと出どころ)

北朝鮮のリ・グァンチョン監督は、試合後の公式会見で判定への不満を口にしました。監督の名前は、韓国語の読み方の違いから、日本の報道では「イ・クァンチョン」と書かれることもあります(CoCoKARAnextなど)。発言は通訳を通したもので、多くは韓国の通信社『聯合ニュース』などの報道を日本のメディアが訳して伝えています。そのため、同じ発言でも媒体によって言い回しが違います。

  • ゲキサカ:「ひとつ言いたいのは、われわれが喫した失点についてです。あの場面がフェアプレーの精神にかなっていたのか、よく理解できません」
  • THE DIGEST(聯合ニュースによる):「結果的に私たちは負けた」「フェアプレーは期待できそうにない。主審に問題があるようだ」
  • CoCoKARAnext(News1による):「あの失点シーンがフェアプレーの精神として正しいのかが、理解できない部分がある。今後もこのような状態が続くならフェアプレーってものが難しくなる。私としては審判に問題があったのではないかと言わざるを得ない」

訳は違いますが、どの報道でも、監督が「決勝点の場面がフェアプレーだったのか理解できない」と疑問を示し、「審判に問題があった」と判定を批判した点は共通しています。

同胞のサポーターへの感謝のコメント

リ・グァンチョン監督は、判定への不満だけでなく、応援への感謝も口にしています。THE DIGESTによると、監督は「悪天候の中、一生懸命に応援してくれた同胞たちに勝利の喜びを届けられず申し訳ない」と話し、「熱い歓声を受け、情熱を胸に今大会の全期間を通じて走り続けた」と振り返りました。

ゲキサカによると、監督は「選手たちは最後の瞬間まで走り、よく戦ったと思う」とも話しています。雨の中、豊田スタジアムのゴール裏では北朝鮮のサポーターが声援を送っていました。試合後に選手たちがまっすぐ向かったのも、このサポーターのいるスタンドでした。北朝鮮がアジア大会で最後に優勝したのは、韓国と両国優勝した1978年のバンコク大会で、今回の敗退でその再現はかないませんでした。

日本側の反応

大岩剛監督と選手のコメント

日本の大岩剛監督は、試合後に北朝鮮の振る舞いを批判するのではなく、自分たちの試合内容を振り返っています。会見では「タフな試合を勝ち上がることができて非常に嬉しく思います。我々が、若い選手たちが非常に学びがある試合だったのではないかなと思います」と話し、「圧倒的なプレッシングで受けに回ってしまった」と反省しました(スポーツ報知、日刊スポーツ)。そのうえで、「相手チームの圧力、そして彼たちのひたむきに前にくる姿勢は我々にとって学ぶべきところです」と、北朝鮮の戦いぶりから学ぶ点があったと語っています(スポーツ報知)。

ゲキサカによると、日本は試合前から、ピッチ上で何が起きても自分たちのプレーに集中するよう、チーム内で確認していました。試合後、鼻の頭に傷が残ったFW横山夢樹選手は「本当にファウルで危ないシーンがすごくあったけど、本当に怪我人が出なくてよかった」と話しています。一方で、DF市原吏音選手は、北朝鮮の選手たちが一つの勝負に懸ける気持ちの強さを感じたと語っています(ゲキサカ)。

処分は出ていない

北朝鮮の抗議や試合後の行動に対して、大会側やAFCから処分の発表は出ていません。前回2023年の杭州大会の準々決勝でも、北朝鮮は日本戦で6枚のイエローカードを受け、試合後に審判団に詰め寄る騒動がありました。このときは、日本サッカー協会がアジアサッカー連盟(AFC)と国際サッカー連盟(FIFA)に映像を添付した意見書を提出しています(サンケイスポーツ、サッカーキング)。

韓国メディアは今回の北朝鮮の行動を厳しく報じており、日刊スポーツによると「北朝鮮は試合でも、マナーでも負けた」と速報した媒体もありました。今後、大会側から何らかの発表があれば、この記事でも追記します。日本代表にとっては、判定をめぐる騒動に気を取られず、次のウズベキスタン戦に向けて準備を進めることが最優先となります。

北朝鮮のオーバーエイジ3人:A代表のW杯予選に出た選手たち

アジア大会の男子サッカーは、原則として23歳以下の選手が出場する大会ですが、各チームは年齢制限のないオーバーエイジの選手を3人まで加えることができます。北朝鮮は、このオーバーエイジの枠を使って3人の選手を加えていました。

スポーツ報知によると、北朝鮮のオーバーエイジの3人は、A代表として2年前のW杯2次予選にも出場した選手たちで、試合の随所で質の高さを示しました。2年前のW杯2次予選では、日本と北朝鮮も同じグループで戦っています。2024年3月21日に東京・国立競技場で行われた試合では、日本が1-0で勝ちました。平壌で予定されていた3月26日の試合は中止となり、日本の3-0での不戦勝となりました(テレ東スポーツ、日本経済新聞)。

これに対し、日本はオーバーエイジの選手を加えず、U-21の選手だけで大会に臨んでいます。年齢の面では、北朝鮮の方が経験を積んだ選手をそろえていたことになります。その中で、日本が年下のチームで勝ち切ったことは、ロサンゼルス五輪を目指すこの世代にとって大きな意味を持つ結果といえます。

2023年杭州大会の準々決勝で何があった?

日本と北朝鮮が「因縁」の相手と呼ばれる理由は、前回2023年の杭州大会での対戦にあります。杭州大会は、新型コロナウイルスの影響で1年延期され、2023年に開かれました。男子サッカーの準々決勝で日本と北朝鮮が対戦したのは、2023年10月1日です。

この試合で日本は、今回と同じ大岩剛監督が率いるU-22のチーム(パリ五輪世代)で臨みました。サンケイスポーツとゲキサカによると、後半6分に内野航太郎選手のゴールで先制し、後半29分にキム・ククボム選手のミドルシュートで追いつかれたあと、後半35分に松村優太選手のPKで勝ち越して、2-1で勝ちました。しかし、試合は大きく荒れ、北朝鮮にはイエローカードが6枚出されました(THE ANSWER、サンケイスポーツ)。サンケイスポーツによると、日本サッカー協会(JFA)はこの試合で北朝鮮に反スポーツ的な行為があったとして、アジア・サッカー連盟(AFC)と国際サッカー連盟(FIFA)に映像を添付した意見書を提出しています(サンケイスポーツ、サッカーキング)。日本はその後、決勝まで進みましたが、決勝で韓国に敗れて銀メダルでした。

飲み物のボトルを奪うように取り、殴るようなしぐさで威嚇(警告6枚)

2023年の試合で特に大きく報じられたのが、給水をめぐる出来事です。デイリースポーツによると、試合中にプレーが止まったタイミングで、日本のスタッフが飲み物の入ったクーラーボックスをピッチに持ち込み、日本の選手が水分を補給していました。そこに北朝鮮の選手が割り込んで飲み物を求め、日本のスタッフからボトルを奪うように取って、殴るようなしぐさで威嚇しました。この選手は、審判から警告を受けています。

THE ANSWERは、この場面を後半27分過ぎのことで、DFのキム・ユソン選手が給水ボトルを奪い、拳を振り上げて威嚇したと伝えています。サンケイスポーツによると、この試合では悪質なタックルも見られました。北朝鮮に出された6枚のイエローカードは、こうした荒れた展開を物語っています。

決勝点のPKをめぐり、試合後に主審を取り囲む

2023年の試合で日本の決勝点となったのは、PK(ペナルティーキック)によるゴールでした。ゲキサカによると、このPKは、飛び出した北朝鮮のGKカン・ジュヒョク選手が日本の西川潤選手と接触して与えたもので、カン選手は警告を受けています。このPKの判定をめぐって、試合後、北朝鮮の選手たちが主審を取り囲み、声を荒げて詰め寄りました(デイリースポーツ)。THE ANSWERによると、試合終了の笛のあと、複数の選手がウズベキスタン人の主審に詰め寄り、副審が選手を制止する場面もあったといいます。

この様子は海外でも報じられました。THE ANSWERによると、香港の英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストは、「怒り狂った北朝鮮サッカー選手が日本戦に敗れた後に審判を襲撃」という見出しで伝えています。一方で、北朝鮮のシン・ヨンナム監督は試合後、「間違った宣告に、選手たちが少し興奮したのは事実」「主審が公正でなければ、サッカーに対する侮辱だと思う」と話し、判定への不満を示しました(韓国紙・中央日報の報道をTHE ANSWERが紹介。サカノワも同様の発言を伝えています)。

このように、2023年の試合は、ラフプレーや判定をめぐる抗議が続いた試合として記憶されています。今回の2026年の準々決勝が「因縁の対決」と呼ばれたのは、この3年前の出来事があったためです。

2025年U-17ワールドカップの「グーパンチ」

試合前の挨拶で何があったか

2つ目の出来事は、年代別の世界大会で起きました。2025年11月18日、カタールで開かれたFIFA U-17ワールドカップのラウンド16で、U-17日本代表とU-17北朝鮮代表が対戦しました。試合は1-1で90分を終え、PK戦の末に日本が5-4で勝ってベスト8に進んでいます(サッカーダイジェストによる)。フットボールゾーンによると、日本はPK戦で5人全員が決め、2011年のメキシコ大会以来14年ぶりの8強入りでした。

問題になったのは、試合前の挨拶です。フットボールチャンネルによると、整列後に両チームが挨拶を交わす際、北朝鮮の選手たちは日本の選手が差し出した拳に、上から強く拳を叩きつけるような動きを見せました。フットボールゾーンは、一部の選手ではなく、選手全員がこの動きをしていたとする報道を紹介しています。

サッカーダイジェストの現地取材によると、試合前には北朝鮮の選手が日本の選手に向かって叫ぶ場面もありました。日本のマギージェラニー選手は「自分たちでしゃべって盛り上がっていたら、相手が急に叫んできた」と振り返り、廣山望監督も「選手はやっぱり怖がっていたみたい」と話しています。

海外メディアの反応と、FIFAの対応の有無

この「グーパンチ」の映像は、SNSで国内外に広がりました。フットボールチャンネルによると、トルコのメディア『Haberler』は「選手たちが握手をする代わりに拳をぶつけ合う場面が、SNSで瞬く間に拡散した」と伝え、韓国の『朝鮮日報』は「北朝鮮のチームが、日本の選手たちに強烈な“パンチ”で応じる姿がカメラに捉えられた」と報じました。フットボールゾーンは、韓国メディアが「不適切な行動が再び問題に」と注目したと伝えています。

FIFAがこの行為について調査や処分を行ったという報道は、今回の調査では見つかりませんでした。なお、ゲキサカによると、AFCは2026年6月25日、U-17北朝鮮代表に罰金5万ドルと次回のAFC U-17アジアカップへの出場禁止の処分を決めていますが、これは2026年5月のU-17アジアカップを開幕11日前に辞退したことに対する処分です。「グーパンチ」の件への処分ではないので、混同しないよう注意が必要です。

北朝鮮代表にとって「日本戦」とアジア大会の重み

アジア大会で最後に優勝したのは1978年バンコク大会(韓国と両国優勝)

北朝鮮にとって、アジア大会の男子サッカーは特別な大会です。RONSPOが紹介した韓国の英字紙『The Korea Times』によると、北朝鮮がアジア大会の男子サッカーで最後に優勝したのは、1978年のバンコク大会です。この大会の決勝で北朝鮮は韓国と引き分け、両国が優勝を分け合いました。

北朝鮮の男子サッカーは、2010年のワールドカップ南アフリカ大会に出場した実績もありますが、その後は国際大会への参加自体が限られた時期もありました。ほぼ半世紀ぶりのアジア大会制覇がかかった大会で、準々決勝で日本に敗れたことの重みは小さくありません。The Korea Timesは、北朝鮮の選手たちが敗退後に「興奮を抑え切れず」、挨拶も握手もせずにピッチを去ったと伝えています。

また、日本と北朝鮮は、年代別やA代表の大会でたびたび対戦してきました。2024年にはワールドカップ・アジア2次予選でも同じグループになっています。日本との試合は、北朝鮮にとって勝敗以上の意味を持つ一戦として注目されやすい試合だといえます。

アジア大会の年齢制限(U-23とオーバーエイジ3人)と、日本だけがU-21で臨む理由

アジア大会の男子サッカーは、2002年の釜山大会から「23歳以下の選手に、年齢制限のないオーバーエイジ選手を最大3人まで加えられる」というルールで行われています(RONSPOによる)。今回の北朝鮮も、このルールに沿って23歳以下の選手にオーバーエイジ3人を加えたU-23のチームで臨み、GKカン・チュヒョク選手はオーバーエイジ枠の一人でした。

一方、日本はオーバーエイジを使わず、21歳以下の選手でチームを組んでいます。アジア大会の2年後にはオリンピックがあり、オリンピックの男子サッカーは23歳以下が基本です。日本はアジア大会を、2年後の五輪(今回は2028年ロサンゼルス五輪)を目指す世代の強化の場と位置づけているため、あえて2歳若いU-21で参加しています。日本はこの方式で2010年の広州大会で初優勝し、直近の2大会(2018年ジャカルタ・パレンバン大会、2023年杭州大会)ではいずれも準優勝しています。

つまり、日朝戦は「年上の選手をそろえた北朝鮮」と「年下の選手で挑む日本」の対戦でもありました。北朝鮮にとっては、年下の日本に2大会続けて準々決勝で敗れたことになります。

騒動をどう受け止めればいい?

韓国メディアの論調(「ラフプレー」の指摘と「問題は決定力」という評価の両方)

今回の日朝戦を、日本と北朝鮮のどちらにも属さない韓国のメディアはどう報じたのでしょうか。論調を整理すると、次の2つの見方が並んでいます。

  • 振る舞いへの批判:『スポーツ朝鮮』は「予想されていたとおり、北朝鮮のラフプレーが見られた」と伝え、『SPO TV News』は「今回も彼らの行動は場の空気を凍りつかせた」と報じた。日刊スポーツによると「北朝鮮は試合でもマナーでも負けた」と伝えた媒体もあった
  • 試合内容の評価:『NEWSIS』は、北朝鮮が日本の10本を上回る18本のシュートを放ちながら枠内は3本だったとして、決定力不足を敗因に挙げた。『スポーツ朝鮮』も「北朝鮮の問題は決定力だった」とし、「日本は北朝鮮の陣形を容易に突破することができず、とても苦労した」とも伝えている

このように、韓国メディアは振る舞いを批判する一方で、北朝鮮がボールを支配し、日本を苦しめた時間帯があったことも認めています。試合内容と試合外の振る舞いを分けて伝えている点は、騒動を冷静に理解するうえで参考になります。

国内のSNSでの反応

日本国内のSNSでも、この試合は大きな話題になりました。メディアが紹介した反応を整理すると、主な論点は次の3つに分けられます。

  • 日本の試合内容への不安:サッカーダイジェストは、「北朝鮮のほうが上手かった」「ヒヤヒヤした」「内容もフィジカルも負けたゲーム」など、日本の苦戦を心配する声を紹介している
  • 選手と監督の温度差:日刊スポーツは、選手が挨拶を拒否した一方で、北朝鮮の監督が笑顔で大岩監督と握手したことに「温度差シュール」という反応があったと伝えている

北朝鮮の行動に厳しい声が集まる一方で、日本の試合内容を冷静に見る声も多いのが特徴です。大岩剛監督自身も、試合後に北朝鮮を批判するのではなく「学びのある試合だった」「受けに回ってしまった」と、自分たちの課題を振り返っています(スポニチアネックス、日刊スポーツ)。騒動を受け止めるうえでは、特定の国や人々をひとくくりにして批判するのではなく、「この試合での、このチームの行動」として事実を見ることが大切です。

まとめ

  • アジア大会のサッカー男子準々決勝で、日本は北朝鮮に1-0で勝ちました。決勝点のあとに北朝鮮が猛抗議して試合が約2分間止まり、試合後には挨拶の列に加わりませんでした。
  • 北朝鮮の監督は「審判に問題があった」と話しましたが、日本の大岩剛監督は相手を批判せず、自分たちの試合内容を振り返りました。
  • 日朝戦は、2023年杭州大会や2025年のU-17ワールドカップでも騒動があり、北朝鮮にとって日本戦が特別な意味を持つことがうかがえます。

日本はその後、準決勝でウズベキスタンにPK戦で勝ち、決勝で韓国に0-1で敗れて銀メダルでした。大会全体の結果は、アジア大会サッカー男子、U-21日本は銀メダルでまとめています。

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参考・出典